絡み草の誘惑
今日の菓子女は珍しく押しが強い。指先でそっと俺の手に触れて来る。どうやら、この紅蔦の絡み草が気になるようだ。
いつもよりも一段と近距離で見つめられて、ほのかに身体に伝わる熱が俺を煽る。
「黎明さん、お願いがあるんですけど……」
もちろん、タダで素直に言うことを聞いてやるつもりなどない。
だが、こうして上目遣いでねだられるだけで、俺の理性は揺らぎ、気持ちまで高揚する。悪くはない。
「いいぜ。……その代わり、後で俺の望みも叶えろよ」
いつもならば、強引に事を進めるのが俺のやり方だが、今日だけはなぜか違った。
たまにはコイツの好きなようにさせてやるか。ほんの気まぐれにそう思った。特に深い意味はない。
少なくとも今は不思議とこの女のお願いとやらを拒む気にはなれなかった。
俺は徐に菓子女の手を取り、ほんの少しだけ力を込めて引き寄せた。
いちごのように真っ赤に染まった彼女の顔に自分の顔(それ)を近付けながら、柄にもなく優しく問うてみせた。
「……で? 菓子女、お前は俺に何を望む?」
掴んだ手首を指先でゆっくりと撫でてやるだけで、ピクッと微かに彼女の身体が小刻みに震える。
普段は憎まれ口ばかり叩くこの女が、一体俺に何を期待しているのか。それを一つずつ探り当てるのも面白そうだ。
「今なら、特別にお前の好きなようにしてやる。素直に言え」
あえて彼女の反応を楽しむかのように、至近距離から意地悪く焦らす。
傍にいられればそれでいい。
だが、最近は何だかそれだけでは物足りないような気がしているのも事実だった。
どうしたい? どうされたい? この押し問答で待つ沈黙のひと時でさえ、なかなかに心地よい。
まるで自分に言い聞かせるかのような甘くもどかしい絡み草の誘惑。
俺がコイツを籠絡するのは、この気まぐれな戯れの後でいいか。
Fin.
2020.7.13
たまにはほんの少しだけ艶っぽい雰囲気にしてみてもいいかも。たまにはね。