間接……?
「オイ、菓子女。随分といいもの食ってるじゃねーか」
昼休み。いつものように食堂で山盛りの弁当を食べ終えた後、大好物の抹茶苺大福をもぐもぐと頬張っていた寧々菓の前に、上官の黎明が近付いて来た。
彼女が昼食後にデザートを食べている姿は、とりわけ珍しい光景ではない。
「黎明さん」
すでに何個かお菓子を平らげていた寧々菓は、しばしの間をおいてから訝しげに彼を見つめていた。
普段ならば、黎明に間食が見つかった時点ですぐにお菓子はすべて没収されてしまい、小一時間は説教を食らうのだが、今は幸いにも昼休みだ。
まさかこんなときまでいつもの嫌がらせやちょっかいを出されるわけでもないだろうと、寧々菓の警戒心はすっかり緩んでいた。
「……」
無言のまま、スカートのポケットに手を突っ込むと、ゴソゴソと何かを探している。
そして、スッと黎明の前に小さな箱のようなものを差し出した。
「えっと、あの……。よかったら、これ、食べますか?」
「へぇ、珍しいじゃねーか。俺にもくれるのか?」
「別にいいですよ。私、まだたくさん持ってますから」
寧々菓はカバンや机の中にまでしっかりと新しいお菓子がストックされているのを得意げに見せびらかして自慢する。
昨日、仕事が終わってから駅前までわざわざ買いに行ったお気に入りのお店の新作スイーツなど、限定品が目白押しだった。
黎明はそんな彼女の話に耳を傾けながら、フッと軽く笑みを洩らすと、寧々菓の手をギュッと掴んでそのまま自分の元へと引き寄せた。
「じゃ、遠慮なく」
黎明が受け取ったのは、寧々菓に差し出されたいちごチョコではなく、彼女が食べかけていた抹茶苺大福の方だった。
「なっ……!」
これにはさすがの寧々菓も驚いた。それまでざわざわと賑やかだった食堂の空気が一瞬にしてシーンと静まり返っている。
「なななっ、何するんですか!?」
寧々菓は耳まで真っ赤になって、黎明の身体を両手で突き飛ばした。
「何って、お前がそれくれるって言ったんじゃねーか」
「言ってないですよ! こっちです!」
箱に入った状態の真新しいいちごチョコを指差して抗議するが、当の黎明はどこ吹く風。
「ごちそうさん」
満足そうに笑みを浮かべながら、ぺロリと舌なめずりをしてみせた。
「こ、この意地悪上司ー!」
喧嘩するほど仲がいい。
もはや、すっかり呉乃の名物となってしまった黎明と寧々菓の痴話喧嘩は、今日もまた一段と白熱した戦いを見せるのだった。
Fin.
2020.2.9
黎明が寧々菓を構うのは、単に彼女の反応を眺めるのが面白いから……という理由だけではなさそうですね。